安永 愛香

Aika Yasunaga

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社会福祉法人どろんこ会 理事長
株式会社日本福祉総合研究所 代表取締役

1974年神奈川生まれ。1997年に東京理科大学工学部卒業後、外資系金融機関に入社。大学在学中に結婚し、入社後まもなく子供を出産。保育園に子供を預けながら働くが、保育サービスの質や保育業界の抱える問題に危機感を抱き、自分自身の手で保育園を作ろうと1998年8月、埼玉県朝霞市内に認可外保育園「メリーポピンズ」を開園。その後も駅前型保育園を中心に開設。2007年、初の認可保育園として「朝霞どろんこ保育園」を開園。現在では事業所内保育園や院内保育園なども幅広く展開中。大学生の長男、中学生の次男の2児の母。

キュレーターの想い

自分で考え、行動できる子供を育てる場に――理想の保育を実現するために、会社を辞め自ら保育園を運営。

子供が変えた、自身のキャリア。子供のために、保育園経営に乗り出す。

大学時代に結婚し、就職してすぐに長男を出産。保育園に子供を預けて働くことになりました。
夜遅くまで見てもらえる保育園を見つけた時は「本当にありがたい」と思い、息子を見てもらえるだけで感謝していましたが、迎えに行くといつもビデオを観させられていることに徐々に違和感を覚えるようになったんです。
お散歩は水曜日だけと決まっていたので、それ以外はずっと室内で遊んでいるのか…とかわいそうに思い、「歩けるようになったので、もっとお散歩させてほしい」とお願いすると、「お散歩は週1回という決まりだからできない」との答え。決まりだからと、単に「預かるだけの場所」になっている保育園のあり方に疑問を感じ、ならば自分が思う保育を実現しよう!と、会社を辞め、貯金をはたいて駅前保育園を開設したんです。

当時はまだ社会人2年目。若かったから行動できたのだと思います。大学は工学部ですし、保育に関する知識なんて全くないのに、「現状を変えなければ」という熱い思いで突っ走りました。大学時代の友人はみんな「なぜ保育園!?」と驚いていましたね。私自身、今でも「子供がいなかったら、この仕事に就くことはなかった」と思いますね。

1998年、自宅近くの駅前に第1号となる認可外保育園「メリーポピンズ」を開園しましたが、初めは入園者はうちの息子一人(笑)。息子の手を引いてお散歩に行き、ビラを配るなどの営業活動をしました。

なかなか入園希望者が増えない中、あるとき大きな転機が。駅の反対側に、学習塾が運営していた保育園が、保育事業からの撤退により園を閉鎖することになり、うちに「園児を引き取ってくれないか」との要請があったのです。もちろん園児だけでなく保育士や職員も同時に来てもらえることになり、経営は一気に軌道に乗りました。今振りかえっても、まるで夢のような経験でしたね。

どろんこになって遊ぶ中で、自ら考え、行動する思考回路を鍛える。

その後、駅前型の保育園を中心に展開してきましたが、2007年、埼玉の郊外に初の認可保育園「朝霞どろんこ保育園」を開園しました。

古民家風の大きな建物に、広く起伏のある園庭。ここでは子供たちは皆裸足で走りまわり、どろんこになったり木に登ったりして遊びます。園内で飼っているヤギやニワトリの世話をしたり、育てている野菜を育てるのは子供たちの仕事。雑巾がけなどの掃除もみんなで行います。
「汚れるからやめなさい」「危ないからやめなさい」…つい子供に対していってしまう言葉ですが、ここでは一切言いません。あらゆる原体験をできるだけ排除しないで提供することで、「自分で考え、行動する」思考が鍛えられるからです。

今後は都心でも、このような保育園を増やしていきたいと考えています。都心に土地が確保できない場合は、駅前と郊外のセットでの開園を進めています。登園は駅前の保育園で、その後バスで郊外の保育園に出かけて自然の中で思う存分遊んでもらい、お迎えまでには駅前保育園に戻る。そんなスタイルを実現し、「自分で考え、行動する」体験を多くの子供たちにしてほしいと考えています。 

子供たちに「生きる力」があれば、日本の将来は絶対に逞しいものになる。

どろんこ保育園では、リーダーシップも自然と養われます。
保育士は、子供たちの行動にできるだけ口を出さないし、指示もほとんど出しません。例えば、お昼ごはん。外で思い切り走りまわっていると、ご飯のいい匂いが漂ってきて子供たちはお腹が空いたことに気付きます。そして「先生、ご飯はまだ?」と聞いてきます。
その時に先生は、「さあ、どうかしらね。でもいい香りがしているから、そろそろじゃない?」と言う程度にとどめます。すると、一番の年長である5歳児が、台所に行って確認したうえで、園庭に走って戻り「ご飯ができたよ!みんな集まって、足を洗って!」と大声で呼びかけ、年下の子供たちの足を洗ってあげる光景が見られます。そうしないと、自分がご飯にありつけないから。

このように、大人が導かなくても子供たちは自然と、どう行動すればいい結果が導き出せるか考えるようになるのです。そういう環境を整備し、提供するのが、我々の役割。自分で考え、行動する力さえあれば、勉強だって自然にできるようになり、生きていくことに困らなくなる。日本の未来も、今より絶対に逞しくなると信じています。

自分の子供に体験してほしいことを具現化し続けて、今がある。

これらはすべて、自分の子供にさせてあげたいと思ったことを実現したものです。

長男を通わせた保育園のあり方に対する疑問からスタートし、自然の中で思う存分遊ばせて、自分で考え、行動できる大人になってほしいと願い、今のスタイルができ上がりました。

そのためか、息子は2人とも、早くから自分で進む方向を決め、行動するようになりましたね。長男は小学5年生の時に、自分から「将来早稲田に入りたいから、塾に行かせてくれ」と言い出し、親を驚かせました。それまで勉強しろなんて言ったことがなかったので、ちょっとした事件でしたね。
中学受験をしたものの絶対に不合格だと思いこみ、合格発表前に「たとえ落ちてもそれはあなたにとって貴重な経験だから」なんて諭したぐらいでしたが、結果合格していて夫ともども驚き、何であんなことを言ったのだろうと反省しました(笑)。今では当初の目標通り、早稲田大学に通っています。

下の子供も兄に似てマイペース。小学校の頃、お小遣いを上げていなかったのですが、自分でシールを作ってクラスの女の子に1枚10円で売ってお小遣いを稼ぎ、そのお金で友だちのバースデープレゼントを買ったと聞いて驚かされました。彼らなりの「生きる力」を身につけてくれたのかなと思っています(笑)。

このような「生きる力」につながるお稽古やアクティビティは大事ですね。小学校に上がってからも自分で考え、行動する体験を積んでいくためには、子供の未来をきちんと考えたおすすめを提案してくれるこのサイトは、非常にありがたいと思います。これから応援していきたいですね。

アイディアが活かせ、能力が評価される環境を実現し、保育業界を憧れの業界へ!

最近では、地方からの開園要請も増えており、都心だけではなく仙台や新潟などにもエリアを拡大していますが、決してうちの看板を増やしたいわけではありません。

実現したいのは、「日本の子育ての価値観を変えたい」「保育業界を根底からひっくり返したい」という2つの思い。

文部科学省の「新学習指導要領」のテーマは「生きる力」。子供の頃の体験を重視し、主体性を大事にするという「人間らしい子育て」に、日本全体が向かっていこうとしています。その中、「生きる力」を育てる保育園の先進事例として注目をいただき、視察に来ていただく機会も増えています。これを機に、「自分で考え、行動することで、生きる力を育てる」という価値観を、業界全体にさらに広げていきたいと考えています。

長男を最初に通わせた保育園で、「決まりだからお散歩できない」と言われたように、保育園は園長先生によるトップダウン方式の経営が主流です。夢を持って保育士になったのに、受動的な仕事しかさせてもらえず、自分のアイディアが活かされる場面がない。結果的にただ「預かる」保育園になってしまっているんです。
自分の子供の人格形成に深くかかわる人が、そんな環境でそんな仕事の仕方をしていたら、子供に「生きる力」なんて身に付くはずはありません。保育士自身が「生きる力」を持てるような環境を作るためには、保育士教育を強化する必要がありますし、園長や経営者のマインドを変え、年功序列ではなく実力を評価する制度に改革する必要があります。
 
大学や専門学校で保育士の資格を取ったのに、卒業後、実際に保育士に就くのは3割程度に過ぎません。保育士になれる人はたくさんいるのに、現場では保育士不足が叫ばれているのは、やりがいを持って働ける環境とは言えないから。保育の現場から、保育業界全体の改革に注力することで、保育士一人ひとりが輝ける「憧れの業界」に変革し、他業界からも転身希望者が集まるような業界にしたいと考えています。